しなやかなれ、日本の乳癌手術


イデアフォー通信96号掲載の「しなやかなれ、日本の乳がん手術」
全摘の場合、インプラント再建が勧められるが多くなった乳がん手術。
保険の適用がある、喪失感がない、きれいな胸になるとそのメリットの説明をうけますが、
 ・通常の乳房は大胸筋の前にあり、柔らかく、通常下垂
 ・インプラントは大胸筋の裏側に入れ、前方へ膨らんだマネキンの胸
 ・年代を重ね、変化していく健側の胸との差が出てくる
その他の懸案事項があるインプラント再建。
これらのことを患者さんは理解し、インプラント再建を受けていうのだろうか、外科医である谷屋氏の意見です。



しなやかなれ、日本の乳癌手術
                 ふたば乳腺クリニック 谷屋隆雄

 椅子からずり落ちそうになったのである。第94号イデアフォー通信の一面記事が原因である。

 『乳房再建のインプラント保険適用から1年。大きな変化が起こっています。?がん研有明病院では、温存手術を希望する患者は減り、全摘+乳房再建がスタンダードな治療法になりつつあるという大きな変化が起こっています?』
 ホンマかいな???・・・だったのである。

 私は現在、北陸・金沢で乳腺クリニックを開業して18年になろうとしている。外科医となって30年余り。この間、世界における乳癌手術の変遷を見聞するとともに、400例以上の自家組織による乳房再建術を実施してきた。その経験から、この記事に大いなる違和感とともに何かしらの危うさを感じたからである。

 何はともあれ事実を確かめるべく、がん研有明病院乳腺センター外科部長の岩瀬拓士先生にTEL。実際の割合に関してははっきりしないけれど確かに乳房の温存が可能と考えられる場合でも乳房切除+インプラントを希望する患者さんが増えているとのこと。「何で?」とお聞きすると、インプラントに保険が効くようになったことが大きい。米女優アンジェリーナ・ジョリーに関するマスコミ報道の影響もあるかも。との事であった。

 ふ〜ん。しかし、この現象はこれまでの乳癌手術に起こってきた大きな流れにある意味で逆行しており、かつ、恐らく近い将来この方法に反省する時期が来ると予想されるため、ひとこと(ではすまないかも・・・)、申し述べておく必要があると考え一筆啓上した次第である。



この掲載文のなかで、谷屋氏は

「  我々外科医はかつてどのような小さな乳癌においても、有無を言わさず乳房切除術を標準手術として実施してきた。であれば今こそ、乳房温存療法を標準治療として、どうすれば乳癌を残さず切除しながら自然な乳房を温存できるかを考えなければならない。技術を磨かなければならない。そのための乳癌専門医制度だったはずなのである(当時の乳癌専門医制度の設立経緯をまじかに見聞きしていた)。それがなぜ、ここにきて温存ではなく、乳房切除を・・・。」

「 では、「キレイになる」とはどういうことか?キレイになる・・・?。

 ここで、そもそもインプラントによる再建とはどういうものかを理解しなければならない。乳房は大胸筋の前にあり、柔らかく、通常下垂している。しかし、インプラントは大胸筋の裏側に入れる。このことだけで、インプラントによる膨らみは、もとの乳房ではあり得ない。インプラントにより再建された乳房は画一的であり、前方へ膨らんだだけの、いわばマネキンの胸の膨らみのようなものである。マネキンの胸。これがいわば「キレイになる」という言葉の意味するところなのだろうか。」


(中略)

 乳房を温存するよりも、全部を切除してインプラントで再建した方がキレイになる。健側の乳房が比較的小さく、下垂のない乳房であればそうかもしれない。しかし、インプラントがレディーメードである以上、左右対称にはならない。温存の場合も再建の場合も左右の対称性を保つことは極めて重要である。欧米ではその場合、健側乳房をインプラントで再建した乳房のサイズに合わせるため、縮小術を行うようである。イタリアなどではこの縮小術まで保険で認められているらしい。しかし、日本では通常、健側乳房の縮小術は全額自己負担となる(再建した乳房がキレイになったから、反対の乳房をこれに合わせて小さくしませんか?・・・またもや商い。“悪魔の囁き”をする医師もいるらしい)。冷静に考えて欲しい、例えば、なんらかの理由で片手片足が義手義足になった時、それに合わせて健康な手足を義手義足に合わせるか?
 しかも、もし健康側の乳房を縮小して、インプラントによるキレイな乳房に合わせたとしても、それは一時のことでしかない。体重の変化や加齢により、その乳房は再び変化して行く。結局左右は非対称になって行くのである。また、インプラントは劣化する。耐用年数は10年ほどだと言われている。つまり、入れ替えを要する。その時、健康側の乳房は・・・。もう、きりがない。インプラントの先進国、米国ではとっくにわかっていることなのである。


など、乳房再建ということでインプラント再建に誘導される現状への懸念と今後問題となるであろうことを鋭く指摘しています。

『イデアフォー通信』第96号に全文を掲載しています。
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