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Q&A 骨転移の基本情報


骨の痛みの特徴
1. 骨転移の起こりやすい部位は、背骨、骨盤、大腿骨、上腕骨で、肺癌の方以外は肘や膝から先はほとんど骨転移が生じません。抗がん剤などによるしびれや痛みは、手袋や靴下型などと我々は表現するのですが、手足の末梢側に、また両側対称性に出現するのが通常です。この痛みの部位の特徴や、薬剤の投与後で腫瘍マーカーが低下しているのに痛みが出てきたなどという場合には、専門医はすぐに薬剤による末梢神経障害による症状と判断できてしまいます。両側の症状がほぼ同時期に出現してくることも薬剤の副作用の場合の特徴です。

ポイント:乳癌の骨転移では、肘、膝から先にはほとんど生じない。

2. 講演の中でお話ししましたように、手や足の骨折については、今日ではたとえ骨折が起こっても何とか機能を回復させることができます。「骨折してもいいじゃないか」という意味か、とお叱りを受けるかもしれませんが、決してそのような真意ではありません。全身のあちらこちらの痛みに、神経を尖らせているのはとても大変です。痛みとは不思議なもので、不安が背景にあったり、そこに神経が集中すると痛みに感じたりすることがあるとされています。手足の骨については、何とかなるという知識を持っていれば、日々の安心につながりますし、痛みかな?どうかな?くらいの軽度の痛みのときや、たまに痛むくらいに頻度が少ないときには、少しゆとりをもってご自身を自己観察ができることにつながります。「あっ、たしかにこれは以前と違って痛みになってきてる」と感じられたら、主治医の先生に相談に行くようにして下さい。

一方我々も、そして皆さんにとっても、何としても避けなければならない下半身不随は、背骨への骨転移で起こります。中でも胸椎と呼ばれる背中部分が約6-7割を占めることが判明しています。私どもの施設で調査してみますと、腰椎ではほとんど下半身不随は起こっていません。少々乱暴な考え方ですが、部位としては背中付近の痛みと、ときに脇腹や前胸部痛が初期症状のことがあるので、これら背中回り・胸回りの痛みに注意しているだけで、大部分の下半身不随を回避できることになります。

このように骨転移の知識を前もって学ばれている皆さんは、勘所をおさえてご自身の身を守ることが可能になります。

その他の背骨では、頸椎と腰椎がありますが、我々の診療経験では、これらの部位では一般に痛みが自覚されやすい傾向にあります。なぜなら、頸椎・腰椎は曲げ伸ばしや回旋など背骨の中でもとくに動きの大きい部位で、加えて腰椎ではかかる体重も大きくなるため、比較的小さな骨転移でも痛みが自覚されやすいのだと考えられます。

言い換えれば、背骨の中では胸椎がもっとも麻痺の原因となりやすい上に頻度も高く、症状も出にくいという不利な条件にあるのです。したがって、背中回り・胸回りの痛みをとくに気を付けるという姿勢が大切になってきます。「先生、麻痺の原因になりやすい胸椎に骨転移が生じていないか、心配で診察に来ました。」そんな風に、たずねてみましょう。

ポイント:痛みの部位では、とりわけ背中回り・胸回りが重要!

3. 時間経過の特徴
拙著の中では、週から月単位で徐々に悪化する痛みと表現しました。1-2年前から続いている症状では、加齢性変化による痛みや、リウマチやヘルニア、坐骨神経痛など元々お持ちの疾患に起因するものが考えやすい経過です。一方、数時間や数日単位で急速に悪化する痛みは、急性炎症などを疑う経過です。

しかし、医師とて時間経過のみで診断できる訳ではなく、上記の痛みの部位や、安静にしていても感じる痛みなのか、(骨転移の特徴である)動いた時の痛みなのか、ホルモン療法や抗がん剤の効いている状況なのか、増悪している傾向にあるのか、腫瘍マーカーの変動は、など多くの情報から総合的に判断していきます。

4. 主治医の先生に相談する
当院でも乳癌の先生方の激務ぶりは、気の毒に思えてしまうほどです。お薬の治療は腫瘍内科医が担当するように徐々に時代は変化してきていますが、それでも乳腺外科外来はいつも大混雑です。なかなか予約が取れなかったりする現実的な問題が避けられないと思いますが、増悪傾向の痛みを自覚しているのであれば、少し予約を早めて受診して相談することは必要です。

どこまで骨転移の検査を精密に実施するかは、比較的高度な医学的判断を含みますので、お伝えするのは難しいのですが、多くの場合、それまでの経過を把握している主治医は骨転移による痛みか否か、的確に判断しています。

とくに乳癌を診療する医師は、がん治療医全体の中でもとくに骨転移に明るく、適切に対処されている場合がほとんどです。なぜなら、骨転移に関する多くの医学的知見は、乳癌領域を中心に築かれてきた歴史があるからです。乳癌診療ガイドラインには骨転移の管理に関する記述も多くなされていますが、他の癌と比較すると積み上げられたエビデンスには、目を見張るものがあります。定期的な骨転移のチェックの仕方や対処方法など、乳癌ほど標準化が進んでいる癌はありません。主治医の先生の診断は現在のがん診療の中では高い水準にあることはお伝えしておきたいと思います。

骨転移による痛みではないと診断があれば、痛みの状況をできれば何かに記録しておくといいでしょう。よく病院では、痛みがない時を0、耐え難い痛みを10として、10段階の数字で痛みの強さを記録するのですが、ご自身でも記録できるかと思います。

これを元にして、また新たな部位の痛みが生じてきていないか、以前より明らかに痛みが強まってきていないかに、気をつけていけばよいのです。以前と違う痛みがあれば、また主治医と相談する、これを繰り返していきます。

5. 検査の問題
定期的な骨転移の検査に関しては、ガイドラインに示されており、心情的には不十分に感じられるかもしれませんが、定期的な骨シンチやPETの必要性は明確に否定されています。講演でもお話ししたように、前提としてあまりに小さな骨転移を発見して治療する意義が乏しいためです。この前提も心情的に受け入れづらいかもしれないのですが、ここに骨転移ならではの特殊性があり、がんナビや拙著でもかなりの紙面を割いて説明しています。是非ご参照下さい。
ここに誤解が生まれると、医師と患者さんの間に無用の衝突が生まれるのを、私はとても心配します。情報を届けて麻痺を減らしたい一方、誤解が生じて現場が混乱することには、とても慎重でいたいのです。

ガイドラインでは腫瘍マーカーでの点検が推奨されていますが、腫瘍マーカーが病気の活動性の指標にならない方では、画像検査が主体になります。しかしひとことに乳癌と言っても、元々の乳癌の性質(組織型や悪性度などとよばれるもので主治医は把握しています)や経過期間、治療にどの程度反応するかなど、多くのことを考慮に入れて、主治医は検査計画を立てています。がんの転移はまた、骨転移ばかりではありません。より生命への影響が大きい肺転移など、臓器転移の点検との兼ね合いもあり、一概にどの程度の間隔で検査が望ましいとは言えないのです。
実際の診療の中では、きわめて病状の進行が早い場合は、毎月診察に来てもらうこともありますし、腫瘍マーカーが安定し術後の年数も立っていれば、年に一度ということもあるかと思います。ここは個別の病状に大きく左右される部分です。

なお、定期検査にCT検査が行われている場合も多いと思います。胸部のCTを撮りますと、麻痺発生の原因となりやすい胸椎は同時に評価できてしまいます。患者さんの負担を減らし、被曝量も抑え、日本全体の医療費抑制にも配慮しながら、主治医は判断しています。

私が発信してきた情報などから、骨シンチやPET検査を定期的に受けなければと感じられたとすれば、かなり骨転移に詳しくなっている証拠です。とても喜ばしいことですが、検査をしてくれない不安は、元は骨転移に対する不安だったはずですね。そのような場合は、
「骨転移のことが心配なのですが。麻痺の危険性は今は大丈夫でしょうか。万が一麻痺が生じたらどう対処したらいいですか。」
など、ご自身の不安に思っていることを率直に尋ねるのが良いと思います。「検査してもらえませんか?」よりは、少し聞きやすいのではないでしょうか。

もし何となく話がしにくい担当医の場合、誰かに診察についてきてもらうことをお勧めしたいと思います。第3者の方が聞きやすいこともあり、自分が誤解している場合も気づいてもらえたり、気になっていることあらかじめ話し合ってから診察に行くと、聞き漏らしが少なくなると思います。1人より2人、3人。誰かと一緒なら、随分心強いものです
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