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臨床試験の論文公表 (朝日新聞「論壇」への投稿(99年8月2日)


臨床試験の論文公表

イデアフォーは医療情報公開の立場から、カルテ開示の法制化と共に、臨床試験の論文公表制度を続けることを強く要求します。
朝日新聞「論壇」への会員の投稿(99年8月2日)を紹介します。

臨床試験の論文公表は継続を
サリドマイド事件など多くの薬害事件を教訓として、我が国では、1967年から、臨床試験(治験)の結果を学会誌などに論文として公表することを製薬会社に義務づけてきた。治験論文が公表されたからこそ、厚生省の再評価の前に外部から、脳循環・代謝改善剤などの新薬の効き目に根拠がないことや危険性があることが指摘されるなどし、医薬品の適性使用に役立ってきた。

ところが、厚生省はこの制度を来年4月から廃止する方針を決め、医薬安全局長通知を出した。@他の製薬会社が、論文を流用して先に新薬の許可を取り、先発メーカーが不利益を被ることがないよう、知的所有権は保護されなければならない A治験論文の代わりに新医薬品承認審査概要(SBA)などの公表が義務づけられているので問題は生じない、などが廃止の理由である。

私は乳がん患者を中心に活動する「イデアフォー」というグループの会員である。この10年、自分達の乳がん体験から、医療情報の公開無くして医療の改善は有り得ないことを痛感し、運動をしてきた。中でも臨床試験に関する情報公開は特に重要な課題であり、昨年2月からワークショップやセミナーを開催してきた。参加者からは、臨床試験が患者の視点とかけ離れた形で実施されている現状に強い不信感が示された(http://village.infoweb.ne.jp/~ideafour/)。
私は3つの理由から、今回の廃止通知の撤回を求めたい。

第一に公表制度の廃止は臨床試験に対する患者の不信感を増すものでしかない。最近、CRC(治験コーディネーター)を置いたり、試験参加者を「創薬ボランティア」と呼ぶなどして、日本での臨床試験を推進する動きが盛んである。「臨床試験は将来の患者のため、公衆のため」などと、ボランティア精神による参加が患者に求められている。一方ではボランティア精神を説きながら、結果を一企業の知的財産として保護することに、患者は大きな矛盾を感じる。素直に臨床試験への参加に同意する気持ちにはなれない。

第二に、臨床試験データは企業だけの知的財産だろうか。今年5月の世界保健機関(WHO)総会における医薬品政策に関する決議(原文 http://www.haiweb.org/から News → WHA52.19 とクリック 日本語訳 http://www.sphere.ad.jp/cont/)に、 「医薬品及び健康政策については公衆の健康利益が最優先であることを確保する」とある。治験論文が公表されなければ、その薬の全体的な正しい評価が難しい。厚生省だけではなく、世界中の研究者や患者、NGOが薬の有効性や安全性を評価できるシステムが保証されてこそ、公衆の健康利益は守られるのだ。

現行の臨床試験の説明同意文書には、「個人情報が分からないようにして、結果が公表されることがあります」とある。プライバシー保護は人権保護の上で当然だが、ここは、「個人情報以外の結果はすべて詳しく論文公表されます」とすべきなのだ。実施する側の都合で結果が公表されないことになると、患者が無駄に使われてしまう危険もある。

第三に、SBAは単なるサマリー(要約)であり、要約者の見解が入る可能性が高い。これをどのように改善しても、論文公表とは質的に異なる。厚生省は、外国でもサマリーしか公表されていないことも理由にしているようだが、96年のスェーデン・ハマーショルド財団による「医薬品行政の透明性とアカウンタビリティ(説明義務)」に関する会議(原文 http://www.haiweb.org/pubs/sec-sta.html 日本語訳 「The Informed Subscriber:TIP 」97年 12(7):70-72)でも、日本の論文公表制度は高く評価されている。

今回の措置は、グローバリゼーションの名のもとに、欧米の政府や製薬企業の「外圧」に対応し、また国内企業の要求にもこたえたものだが、外国の悪い部分を見習う必要はない。論文公表については日本のほうが進んでいるのだ。患者としては、質の高い論文がより多くの第三者の目に触れ、吟味され批判されてこそ、現在求められている「根拠に基づく医療」(エビデンス・ベースド・メディシン=EBM)に役立つのであり、それを経て初めて安全で有効な医薬品が使用されると信じる。

この三点を踏まえ、繰り返し強調したい。臨床試験の論文公表廃止の局長通知は、撤回すべきである。結果を論文として公表することが保証されなければ、患者は臨床試験の参加に同意できない。 ( 塩谷博子 )
 



イデアフォーはN・SAS-BC 01 臨床試験(UFT/CMF比較試験)の症例集積期間終了を機に、国立がんセンターに質問状を送付しました。この活動に関して2000年2月に、外科のドクターからお手紙をいただきました。→ドクターAからの手紙をいただきました。



*2009年7月 「UFT/CMF比較試験(試験の名称:N・SAS-BC01臨床試験)」に関する関連資料をまとめました。こちらから

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