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第1回臨床試験ワークショップ報告


臨床試験ワークショップ
第1回ワークショップ「臨床試験って何?どうやっているの?」をイデアフォー会員向けとして1998年2月7日〜14日におこないました。ここに計画者と参加者それぞれの報告をおとどけします。なお、学習内容は「イデアフォー通信」に連載しています。
1998年9月には、外部に向けてセミナー「臨床試験はだれのもの」を開きました。



第1回ワークショップ・ 計画者の報告
  第19回日本臨床薬理学会(大分1998、11月20、21日)抄録
  『臨床薬理』1999;30(1):61−2

患者による患者のための臨床試験ワークショップの試み

背 景 :イデアフォーは、乳がん体験者を中心に、患者の権利が確立した、より良い医療実現を目指して、インフォームドコンセントの推進と医療情報の収集・提供を活動の基本とする市民グループである。現在会員は550名を超える。活動の一環として、数名の会員は、東京医科歯科大学医学部の学生を対象とした、臨床試験に関するオンサイト教育にオブザーバーとして参加してきた。 また、イデアフォーへのこれまでの電話相談のなかには、治験であるとの理解もないまま、同意書に署名を要請され当惑しているケースが少なからずあり、対応のための学習が必要になっていた。 これらの体験から、患者/医療消費者が臨床試験の知識をもつことの必要性を感じていた。

目 的 : 患者/医療消費者が、臨床試験と治験の具体的方法、その倫理性とそれを守るための手法、ならびにその社会的意義を理解することを目的として、患者サイドで初めてワークショップを行った。その方法、参加者の感想、今後の臨床試験の課題について検討し報告する。

方 法 : 本ワークショップは、津谷喜一郎氏(東京医科歯科大学臨床薬理学助教授)とHazel Thornton氏(英国Consumers' Advisory Group for Clinical Trial代表)のアドバイスを得て、講義とオンサイト教育により構成され、1998年2月に5日間にわたり午後半日を使ってのプログラムにより行われた。 参加者はイデアフォー会員に限定した。内容は、@臨床試験の全体像・生命表解析についての講義。A健常志願者を対象とした臨床試験第1相受託機関の施設見学と討論、B製薬企業の動物実験ラボの見学、開発担当者による医薬品開発の全体的な講義と討論、C臨床試験受託機関(CRO)および治験コーディネーター(CRC)の業務内容についての講義と討論、D参加者とアドバイザーによる全体討議−である。 参加者にはプログラムごとの感想文提出を義務づけ、それぞれの理解度と疑問点を検討するデータとした。

結 果: 参加者は全員女性で、30代1名、40代9名、50代6名の計16名で、うち13名は乳がん患者である。そのため、参加者の感想は抗がん剤の治験との関連で捉えたものが多い。参加の動機は、「臨床試験について知りたい」、「薬の認可方法に関心がある」、「治験現場を見たい」などである。臨床試験の全体像講義に14名の参加があったが、オンサイト教育への参加数は、数日にわたり、平日に行われたためかそれぞれ8名程度であった。
@臨床試験/治験の全体像
参加者の多くは臨床試験が「目の前の患者のためにする治療ではない」こと、「治験」は厚生省への承認申請のみに拘わることを初めて知った。「EBMの必要性は理解するが、現状では患者のみが犠牲になる」、「抗がん剤の第T相試験やRCT(無作為化比較試験)は、被験者に酷過ぎる」、「エンドポイントに患者の視点が無く、不必要な治験が行われている」、「プラセボ使用にインフォームドコンセントは取れるのか」、「既存薬の95%以上の成績なら同等とするのはおかしい」、「新GCPは現場で果たして遵守されるのか」など、内容を理解するにつれ疑問が続出した。
A第1相臨床試験受託施設
ここでのGCP管理体制は好印象であったが、他の多くの施設について危惧する声があった。被験者への金銭の支払についてはそれほど抵抗は無い。「施設が予想より小さい、試験が意外に小人数で行われている」、「抗がん剤の第1相と比べ、危険域まで対象薬を使うわけではないのでのんびりしている」、「被験者のプライバシー保護へより深い配慮が欲しい」、などの感想があった。
B製薬企業開発部門/動物実験ラボ
近代的なGLP/GCP管理体制やきちんとした対応、分かり易い説明に好感を持つ。しかし、「関係者のみの社内治験審査はバイアスが入る、患者を含めるべき」、「医師/モニターの主従関係が続く現状で社内モニターにどういう教育を行うのか」、「どんな治験を行っているか情報公開して欲しい」との意見がでた。 GLP施設では実験のみのために繁殖させられる動物たちが多くいる事実に衝撃を受け、「運動もせず暮らす試験動物によるデータは意味があるのか」、「動物実験はあまり意味が無いとして、欧米ではヒトでの実験開始が日本より早いという。根拠があるなら、日本でもそうするべきではないか。」という疑問がでた。
C臨床試験受託機関(CRO)
明快な説明に好印象を受け、外部のモニターとしての役割と存在理由は良く理解された。ただし、メーカーを主たるスポンサーとしながら、支配を受けず、独自性を発揮し事業として成り立つのは相当困難と思っている。 CRCの役割への関心は非常に高い。 スポンサー向けビデオを見て、「スポンサーの意向に沿った、事実とは思えない説明があった。事実を患者に伝える職務であるべき」、「患者に実施側の人間であることを明確にすべき」、「患者の意志決定に派遣CRCが手助けするのは問題」、「説明をするとたいてい同意してもらえるというが、実施側には好都合でも、CRC自身や患者にとっては危険だ。被害が起きたら患者はCRCを怨む」、と危惧する声が多い中で、「CRCの介入により、密室状態で行われていた臨床試験の風通しがよくなることは期待できる」という意見もあった。
D全体セッション
「いい薬は必要だという名目で、意味の無い治験が行われている。科学的な妥当性、倫理性、安全性を十分に満たした臨床試験だけが行われるべきだ」という意見が圧倒的である。「同意が取れないのは、不正な治験への患者の意思表示であり、"空洞化"は当然の成り行き」、「過去には臨床試験の必要性を感じて参加してきたが、ヘルシンキ宣言の精神を医師が理解していないようなので状況が改善されるまで受けない」、「公正な情報開示が無くては、患者は治験を信頼できず、メリットも感じない」、「アメリカのように、インターネットで情報公開はできないのか」などの意見が出た。一方、「市民が臨床試験について学び、臨床試験の各段階で意思表示することが必要である」と市民側の自主性を求める意見もあがった。

結 論: 参加者にとって「臨床試験は目の前の患者の為にする治療ではない」ことが最大の発見であり、また、我が国の臨床試験はいずれの段階においても患者の意見が入っていないことから、ワークショップ終了後も臨床試験自体に危惧を感じていることが明らかとなった。
感想の要旨である、 @意味の無い治験を無くし、患者の信頼を回復することが先決である A実施中の臨床試験について情報公開が必要である B各段階のIRB(治験審査委員会)へ患者が参加する機会を作るべきである、C現状のままでは派遣CRCの導入に危惧を持つ、については、臨床試験の今後のために、実施関係者は特に検討すべきであろう。なお、その後イデアフォーは、同年9月、市民向けセミナーを実施したことを付記したい。

謝 辞: 指導頂いた2人のアドバイザーと天理医学研究所 前谷俊三氏、及び協力頂いた北里研究所バイオイアトリックセンター、第一製薬東京R&Dセンター、シミック株式会社の方々に謝意を表する。

(文責 塩谷 博子)

 

第1回ワークショップ・参加者からの報告
   (イデアフォー通信26号-1998年4月発行-掲載)

ワークショップは、16名の参加(日によって参加数は変わります)で5日間のプログラムを終了しました。 講義と実施施設の見学、現場での質疑応答を通して、今まで漠然としたイメージでしかなかった臨床試験の正しい在り方を学ぼうという試みで、患者サイドで主催したのは初めてのことです。津谷喜一郎氏(東京医科歯科大学臨床薬理学助教授)とHazelThornton氏(Consumers' Advisory Group for Clinical Trialの代表)をアドバイザーに迎えて準備を進め、訪問先の各施設でのきちんとしたカリキュラムに基づいての講義、たくさんの資料と素朴な疑問に対する率直なお答えなど、実りの多い5日間でした。

初日(2/7土):東京医科歯科大で「臨床試験の論理と倫理」(Dr.津谷)、「生命表解析」(天理医学研究所副所長Dr.前谷)の講義を受けました。受講した私たちの多くがここで初めて理解したのが、「臨床試験は治療ではない」(目の前の患者のためにするものではない)ということでした。治療ではないからこそ患者の人権保護が重要なのです。エビデンスベースドメディスン(科学的根拠に基づいた医療)、試験のデザイン・結果の解析などについて学びました。

2日目(2/10火):北里バイオイアトリックセンター第1相臨床試験(健常者による試験物の安全性確認試験)施設の見学・説明・質疑応答でした。北里のような「受託機関相互連絡協議会」に属する14の第1相臨床試験施設はかなり管理が行き届いているようです。ただ、40以上もあるこれに属さない施設の現状はどうなのかが気になるところです。ここでも倫理性、人権保護ということが非常に強調されていました。

3日目(2/12木):第一製薬東京研究開発センターの見学・説明・質疑応答です。製薬企業における動物実験(非臨床試験)と臨床試験の具体的方法の理解、臨床試験及び治験の倫理性とそれを守るための手法を考えることが目的です。治験の内容を社内の治験諮問委員会(開発に関係ないスタッフ、社外医師、弁護士)でチェックすることになっていますが、そのメンバーに患者を入れる必要性を感じました。アメリカでは抗エイズ薬など、どこでどんな臨床試験が行われているかインターネットですべてわかるということですが、日本ではそういう情報公開はまだ行われていません。なぜできないのか、また参加者を公募することが患者にとってメリットになるのか、といったことが討議されました。

4日目(2/13金):(株)C-MIC(臨床試験のサポート会社であるCRO=Contract  Research Organization) を見学し、代表の中村氏より「CROと治験について」、元ナースの沢畑、高橋両氏から「クリニカルリサーチコーディネーター(CRC)について」説明を受けました。CRCという患者に治験の内容の説明をする役割の存在は、両刃の剣でもありますが、医師と患者だけの密室状態ですすめられていた臨床試験の風通しがよくなると期待できるとの意見も出ました。いずれにしても、懸念される点も含めてもう少し話を聞きたかった部分でした。ここで渡された資料『月刊薬事』の別刷りはさまざまな角度からみた臨床試験に関する問題点が整理されていてわかりやすいものでした。

5日目(2/14土):全体総括です。臨床試験の社会的意義・必要性について話し合いました。自ら考える材料が得られたことがこのワークショップの大きな成果でした。要は、科学的な妥当性、倫理性、安全性を十分にクリアした臨床試験だけが行われるべきだ当性、倫理性、安全性を十分にクリアした臨床試験だけが行われるべきだということです。いい加減な臨床試験にノーと言える患者になりましょう。


(報告:中澤幾子)

 
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