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ドクターAからの手紙


「UFT/CMF比較試験」「イデアフォー通信」34号(2000年4月15日発行)より

ドクターからの手紙
 通信33号「国立がんセンターは情報公開してください」への反響


 イデアフォーはN・SAS-BC 01 臨床試験(UFT/CMF比較試験)の症例集積期間終了を機に、国立がんセンターに質問状を送付しました。この活動に関して2000年2月に、外科のドクターからお手紙をいただきました。本来は実名でご紹介すべきですが、『イデアフォー通信』に掲載する場合は匿名にして欲しいとのことですので、ドクター.Aとさせていただきます。大変興味深い内容で、おそらくドクターAと同じようなお考えの方が多々いらっしゃることと思います。ドクターAのお手紙とそれに対する返事を掲載します。


ドクターAの手紙
 イデアフォー通信、郵送くださいましてありがとうございます。日ごろの診療に役立ち感謝しております。貴会の顧問医である近藤誠医師の本などを読むと、一理あること少なくありません。
 国立がんセンターの比較試験の質問状について、以下問題点を羅列します。
1. 近藤氏、貴会での根拠ある治療法としてのCMF療法が有効であることがなぜわかったのでしょうか。これは外国における多数例による比較試験で明白になったのではないでしょうか。比較試験を否定する近藤誠医師が、比較試験の論文を引用するのは、問題ではないでしょうか。
2. CMF療法が金科玉条でしょうか。将来もっとよい治療法(効果のよい、副作用の少ない治療法)があるかもしれません。それには比較試験は不可欠であります。確かに患者をA、Bに分けるのは問題がありますが、多数例による比較試験は必要不可欠であります。
3. 根拠のない治療法としているUFTは、全然効果はないのでしょうか。UFTとCMFを比較するのは非倫理的としていますがその根拠はよく分かりません。
4. 日本の乳がんに対する化学療法の研究はどのようにすべきでしょうか。このような貴会の考え方は、日本の乳がんに対する化学療法を阻害しているように思われます。患者の了解のもとに、将来の新しい治療法を模索することが大切であり、患者さんにとっても福音ではないでしょうか。
5. 国立がんセンターの比較試験は、いずれ報告されると思います。全国にたくさんある患者の会に、研究発表(他にたくさんある)をいちいち報告する必要、義務があるのでしょうか。


イデアフォーよりドクターAへの返信
 お手紙ありがとうございました。ご質問にお答えする前に、ひとつ明確にしておきたいことがあります。ドクターAばかりでなく多くの医師が誤解されているようですが、近藤誠氏はイデアフォーの顧問医ではありません。また、会員でもありません。イデアフォーは1989年、近藤医師のところで温存療法を選択した患者が中心となって設立されましたが、発足当時から、氏とは独立した形で活動を始めています。顧問医はおかず、世話人による合議制で会を運営してきました。
 それでは、2.よりお答えします。1.は近藤医師へのご質問なので、近藤氏に直接お尋ねいただきたいところですが、今回は通信に掲載するので特に氏より回答をいただき、最後に掲記しました。
2. 私たちはCMF療法を金科玉条にはしていませんが、現時点では世界的な標準治療法だと考えています。1998年、セント・ガレンで開催された世界の専門家による「乳がん補助療法に関する合意形成会議」でも、化学療法としては、多剤併用のCMFとCAが推奨されています。けれども、これらの治療法が絶対的であるはずはなく、私たちも、将来的には、より効果があり、副作用も少ない治療法がでてくる可能性があると考えています。 そして、科学的根拠を求めるためには、患者をA群、B群に振り分ける無作為化比較試験が必要だという認識も持っています。イデアフォーは比較試験そのものに反対しているわけではありません。
3. UFT/CMF比較試験が非倫理的だという根拠は以下のとおりです。
@ UFTには科学的根拠のある治療法CMFと比較試験を行うことを正当化できるだけの臨床的なデータが無い。CMFは欧米での多くの臨床試験の結果有効となった治療法で、再発抑制・延命効果が証明されている。一方プロトコル参考文献によると、UFTには小規模な試験データがわずか3点あるだけで、 延命効果は検証されていない。今回の試験は延命効果を求める術後化学療法なので、効果が証明されているCMFと証明されていないUFTを比べることに妥当性はない。UFTデータの詳細は紙面の都合上省略するが、ドクターAにはお送りしたい。UFTは当時の甘い新薬承認基準により認可された薬で、副作用が少ないために汎用されてきた。
A この試験は、CMFと比べて、UFTの無病再発生存率が7.5%低い場合まで臨床的に同等と 考えるという組み立てになっている。CMF群の患者と無治療群の患者との生存率の差が8%と出ているので、無治療群よりわずか0.5%高ければ、CMFとUFTを同等とするということになり、患者は納得できない。
B 患者への説明・同意文書が正確でない。同意文書は改訂されたが、CMFが標準治療法として世界の専門家の合意を得ているという重要な情報が欠落している。相変わらずCMFとUFTには同等の効果があるかのような不正確な記述になっている。
 UFTには延命効果を証明するデータが無いのですから、少なくとも術後補助化学療法としての使用は認められないと思います。CMF療法で助かる可能性のある人もUFT療法では再発しかねません。
4. イデアフォーは抗がん剤の臨床試験が適正に行われるのであれば、原則的にはそれに反対するつもりはありませんが、抗がん剤の臨床薬理試験(第1相試験)は毒性テストともいえる非倫理的なものなので、問題があると考える人もいます。患者の中にも「抗がん剤ノー」という人もいれば、「抗がん剤にかけよう」という人もいます。ただし、抗がん剤は命に関わる薬ですから、どの薬剤を比べるか、試験の組み立て等は、倫理的にも、科学的にもより厳格さが要求されます。試験のメリット、そしてデメリットが正確に情報提供され、患者が自発的に参加することが基本だと思います。
5. 私たちは、全国の患者会への報告を求めたわけではありません。けれども、イデアフォーは試験の中止を求めてこの2年間、国立がんセンターに対して活動してきました。症例集積期間の終了を機に情報公開を求めたことは、自然の流れではないでしょうか。今、アカウンタビリティ(説明義務)が問われています。情報が公開され、医師と患者が情報を共有することから患者本位の医療が始まります。             (青木 栄子)


近藤医師よりドクターAへの回答
 私は、匿名の文章は批判たり得ないし、返事をする必要もないと思っております。ただ、匿名にしろ私が書いてきたことに関する文章が『イデアフォー通信』に載るということなので、お答えすることにしました。
 ドクターAは私の本を読まれたといっていますが、どの本にも比較試験(くじ引き試験)自体を否定した個所はないとおもいます。むしろ私は著作のなかで、くじ引き試験の重要性を以前より一貫して説いてきました。ただ、実際に行われて結果が発表された個々のくじ引き試験について、 @実施方法に問題がある、A結果に対する報告者の解釈が強引である、B統計的有意差があっても患者にとって意味が無いか薄い、などの批判をしている個所があります。ドクターAはそれらをもってして、私が一般論として比較試験自体を否定していると勘違いされたものでしょうか。なお、くじ引き試験の解釈上の問題点については最近の文章(『日本医学放射線学会雑誌』59巻839−843頁 1999年)も参考にしてください。


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